名誉毀損とプライバシー侵害の比較 ~加害者の行為内容や成立条件、対処法の違いとは~

多くの方がスマホやパソコンを持ち、手軽にインターネットを利用しています。生活の利便性は向上し、暮らしも豊かなものになっていますが、その一方で安易な情報の拡散がプライバシー侵害や名誉毀損の問題を引き起こしています。

 

これらはどちらも個人の権利・利益を害する行為であり、情報の発信に基づくという共通点も持っています。しかし同じ事柄ということはできません。当記事で具体的な行為内容、成立の条件や対処法などの違いを挙げて両者の説明をしていきます。

プライバシー侵害とはどういうことか

「プライバシー」については厳格な定義付けがなされているわけではありません。氏名や住所、メールアドレス、電話番号、身体的特徴、前科など、様々な個人情報がプライバシーに該当し得ます。

 

そしてみだりに自己の情報を公開されない権利を指して「プライバシー権」とも呼びます。

 

昨今はSNSの利用により簡単に一個人が世界に向けて情報発信できるようになっており、このプライバシー権を害する行為も容易にできる環境にあります。人の私生活のこと、氏名や住所などの個人情報も公開ができてしまいますし、さらに別の人物によりその情報が拡散されていく連鎖が起こると取り返しがつかなくなってしまいます。

 

また、情報一つひとつでは個人を特定することができずプライバシー権に抵触するものでなくとも、複数の情報が統合することで個人が特定できてしまうケースもあります。

 

これらプライバシー権を害する様々な行為をひっくるめて「プライバシー侵害」と呼ばれています。

プライバシー侵害が認められた事例

「プライバシーの侵害」という表現は様々な場面で使われていますが、その侵害行為を阻止したり賠償請求をしたりするには、法律上保護される権利・利益が害されていると認められる必要があります。
一般論として「あなたはプライバシーを侵害している」と表現できる場合でも、それ以上のアクションを起こすには法的な問題として取り扱う必要があるのです。

 

そして法律上「プライバシーの侵害をしてはいけない」「プライバシーの侵害をした者には罰金を科す」などと明示はされておらず、個別に評価を行う必要があります。

 

過去にあった例としては、小説のモデルになった方がプライバシー侵害を理由に訴訟を提起したという事案があります(最三小判 平14..24)。当該事案では、「侵害行為による被害と侵害行為の差止めによる侵害者側の不利益を比較すること」が重要であると示され、被害者に大きな被害が生じること、事後の回復が困難であるときなどには差止めを認めるべきとの判断に基づき、プライバシー侵害をした者への差止めを認めています。

 

また、前科を公表された方がプライバシー侵害を理由に損害賠償請求を求めて訴訟提起した事案もあります(最三小判 平6.2.8)。前科についても事実を公表されない法的利益は存在しており、当該事案でも、公表されることによって被った精神的苦痛について損害賠償請求を認めています。

名誉毀損とはどういうことか

次に「名誉毀損」についてですが、これは名声や信用など、ある人物の社会的評価を下げる行為であると説明することができます。「名誉」についての捉え方が重要であり、当人のプライドであるなど、感情的なものを傷つける行為は名誉毀損ではありません。他者からの評判、人格的評価など、対外的な関係に基づくものです。

 

具体的には、他人の悪口を多数の者に言いふらす行為、SNS上で人の悪評を広める行為などが名誉棄損に該当することがあります。誹謗中傷についても同様です。

 

また名誉毀損については刑法で規定されている犯罪行為であり、次の条文に該当するかどうかがポイントといえます。

 

公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。

引用:e-Gov法令検索 刑法第230条第1

名誉毀損が認められた事例

名誉毀損に関わる事例はたくさんあります。

 

例えばある飲食店に関する記事をインターネット上に掲載したことが、「公然と事実を摘示し、飲食店を経営する法人の名誉を毀損した」として名誉毀損罪を成立させた事案があります(最一小決 平22..15)。

 

当該事案において裁判所は、「行為者が摘示した事実が真実と勘違いしたことに関して、相当の理由があると認められるときに限り、名誉毀損は成立しないと解するのが相当」と判断を示しています。そして行為者にはその相当の理由が認められないとして、名誉毀損の罪の成立を認めたのです。

名誉毀損とプライバシー侵害の比較

それでは、名誉毀損とプライバシー侵害を比較していきます。

 

ポイントは次の点にあります。

 

  • 発信される情報の内容が違う
  • 成立する条件が違う
  • 加害者への対処法が違う

 

それぞれの内容を詳しく見ていきます。

発信される情報の内容が違う

名誉毀損においては、「他者からの評判を下げる情報」の発信が事の発端となります。社会的評価としての名誉を法律上守るため、刑法でも名誉毀損罪が法定されています。

 

一方のプライバシー侵害においては、「個人の情報、秘密」の発信が発端で発生するものです。個人の情報が公開されることによって不安、羞恥心などにさらされてしまい、個人に守られるべき権利や利益が害されてしまいます。これを防ぐためにプライバシー権が観念されています。

成立する条件が違う

名誉毀損は刑法上定められた罪ですので、成立条件が条文でも明示されています。「公然と」「事実を摘示」することがその条件です。そのため11の言い合いでは名誉毀損は成立しませんし、事実を摘示しない単なる侮辱発言でも名誉毀損は成立しません。具体的な事柄を、インターネット上など多数の人物が目にするような場で示す場合に成立します。

※事実の摘示がないときでも侮辱罪は成立し得る。

 

これに対してプライバシー侵害の有無は簡単に判断ができません。情報を公表されないことの利益が認められ、それが公表することの利益を上回ることなどが重要といえます。

 

例えば逮捕報道については日常的に行われていますが、実名での報道にも公共性があるとの理由から、通常はプライバシー侵害にはあたらないと考えられています。

加害者への対処法が違う

名誉毀損は犯罪の一種ですので告訴を行い、刑事事件として処理してもらうことができます。有罪と認定されれば、加害者には最大で3年の懲役刑もしくは禁錮刑、または、最大50万円の罰金刑が科されます。

 

しかしプライバシー侵害はその行為が何かしらの罪に該当しない限り、直接的に犯罪として裁くことはできません。

 

そこで救済を図るには、民事事件として対処する必要があります。なお、民事事件として差止めや削除、損害賠償などを求められるのは名誉毀損においても同じです。

 

例えば損害賠償請求をするなら、民法第709条に基づいて名誉毀損やプライバシー侵害を不法行為として認めてもらい、発生した損害分の賠償を求めることになるでしょう。

 

故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

引用:e-Gov法令検索 民法第709

 

訴訟手続などを一般の方が対応するのはなかなか難しいと思われます。もし「名誉毀損をされた」「プライバシーの侵害を受けている」とお困りの場合は早めに弁護士に相談することをおすすめします。

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